世界のビジネスニュース(通商弘報)

本格抹茶カフェ「雪月華」がニューヨークにオープン

—日本産を使用し茶道の普及図る—

(米国)

ニューヨーク発

2017年09月11日 


ニューヨーク市のイーストビレッジの一角、ショーウインドー越しには畳が見え、洗練された雰囲気が漂う抹茶カフェがある。茶道の美しさを広めることを目指すTea-Whiskの最高経営責任者(CEO)森絢也(もりじゅんや)氏と茶道家の森宗碧(もりそうへき)氏夫妻が、満を持して4月にオープンした「雪月華」(せつげっか)だ。同夫妻に活動のきっかけから、路面店出店までの経緯を聞いた(8月7日)。 

ニューヨークに魅せられたことがきっかけ

(問)ニューヨーク市で会社設立をしようとしたきっかけは。

 

(答)もともと茶道の素晴らしさを海外に広めたいと考えていた。22年前(1995年)にニューヨーク市を訪れた際、忙しい街だからこそ茶道の真髄が伝わると思い、ここで茶道を広めたいと思ったのがこの地を選んだきっかけ。それ以来、日本で茶道を本格的に学ぶ傍ら、15年間毎年、ニューヨーク市を訪れた。そして2011年に茶道の普及活動を本格化するために夫婦で引っ越し、2015年には活動の幅をさらに広げるために会社を設立した。

 

(問)茶道普及活動の経緯は。

 

(答)2011年の引っ越し後に日本で東日本大震災が起き、何か日本のためにできることはないかと考えていた。ちょうどその時に、英語を学んでいた語学学校から声が掛かり、茶道クラスを学校のチャリティーオークションとして出品。これをきっかけに、多い場合は週3回も茶道のクラスを行うようになった。2011年から2013年にかけて250回開催し、延べ1,000人以上が参加しており、今でもその時のお客様に支えられている。 

茶器などの物販や茶道の稽古も実施

(問)店舗での活動は。

 

(答)雪月華は、2017年4月末にオープンした。店舗の奥で、目の前で一服ずつ日本産の抹茶をたてることが特徴の抹茶カフェだ。茶だけでなく茶器や茶筅(ちゃせん)などの物販も行っており、予想していたよりも売れ行きがいい。ここでは実際に茶をたてているのを見て味を体験できるため、茶器や茶筅など飾ってあるだけでは使い方が分からないものについても購買意欲が湧くようだ。

 

店舗内の手前には、日本から取り寄せた京間の畳を配置し、週に1~2回、平日を中心に茶道の稽古を行っている。 

店舗で抹茶をたてる様子(雪月華提供)
店舗で抹茶をたてる様子(雪月華提供)

 

(問)どのように立地を選んだのか。

 

(答)最初はオフィス街であるマンハッタンのミッドタウンで、疲れた人を癒やせるような「心の安らぎ」を提供する場所を想定して探していた。しかしミッドタウンの物件は広く、家賃も高い。そのため、設計事務所の協力を得て他のエリアでも探したところ、ちょうど良い条件の物件が空いていたのが今のイーストビレッジだった。理想は、平日はオフィス街で働いている方、土日祝日は居住者をターゲットと考えてはいるが、イーストビレッジだとオフィス街の顧客を取り込むのがなかなか難しいのが現状だ。

 

(問)人気のメニューや客層は。

 

(答)伝統的な薄茶からアーモンドミルクを使った抹茶ラテまで、特定のメニューではなく、さまざまな種類が飲まれている。店内に飾られている、抹茶のもととなる碾茶(てんちゃ)をひくための石臼は、京都の茶屋から中古で買い取ったものだ。この石臼を使用した、ひきたての抹茶を8月中には店内で販売したいと考えている。

 

来店者は、ニューヨークの住人だけでなく、米国内または南米や欧州からの旅行者までさまざまだ。日本が好きで茶道に興味を持って訪れる人もいれば、抹茶を健康商品と捉えて購入する人もいる。また、茶道稽古の生徒は10~50代と幅広く、出身地も米国内だけでなく、ロシア、南米、アジアなど。物質的な豊かさよりも、精神的な豊かさとして茶道を求めて、弁護士、モデル、トップアスリートのトレーナーらも参加している。茶道は国に関係なく、普遍的に受け入れられていると感じている。

 

(問)プロモーション方法は。

 

(答)現在、プロモーションはウェブサイト、フェイスブック、インスタグラムと、登録制メーリングリストが中心だ。長年活動してきた茶道レッスンの効果もあり、リストには合計800人程度いる。 

抹茶の生産者を訪問し、高品質な商品扱う

(問)取り扱う日本産抹茶は、どのようにして選んだのか。

 

(答)少量生産をしている小規模の日本企業の高品質な商品を扱いたいと考えている。味だけでなく、バックグラウンドを知り、そのストーリーも大事にしたいと考えており、取り扱う前には夫婦2人で実際に生産者を訪問している。

 

(問)今後の課題は。

 

(答)現在は、手間がかかる規制対応、店舗運営、将来に向けたことなどを夫婦2人でこなさなければならず、取り組みたい活動も多く、非常に忙しい。一方で将来的には、2店舗目をミッドタウン、3店舗目を西海岸、最終的には日本でも展開したいと考えている。そのためには、店を任せられる人材を育てないといけない。フランチャイズ展開は、茶道も含めた人材教育が必要という観点から、単純なマニュアル化は難しく、困難が予想される。2017年秋以降には、店舗内で、陶芸や書道など日本人作家による展示会を3回開催する予定だ。

 

(沼田茂仁、デラコスタ葉子)

 

(米国)